シアターコモンズ2022




ボーハールト/ファン・デル・スホート 「動かない旅」




まず最初にリラックスした環境で楽な姿勢をとってくださいと言われる
ここで「ん?催眠か?」となる
右耳と左耳から気持ちいい低音ノイズが聞こえてくる、単体だと普通だが両耳から聞こえるとビブラートして聞こえてきて、
これは右脳と左脳が一つの回路となって働く「ヘミシンク」であると説明される
ヘミシンクの状態で草原から洞窟に入っていくのを想像してくださいと言われ、催眠だ!と確信する
水晶のベッドに寝て、自分の体を修復させるという素粒子と高次の体験に誘う振動に身を任せなさいと言われる
全てのいらないものを洗い流したら、螺旋階段が降りてくるので、それを登ると神々が踊ってるのが見える
ここで「天の岩戸」のストーリーが話され始めて驚く
「情報の生成」と出てきて、新しいチャプターに移る
「インフォメーション」と名乗るなにかが語り始める
情報は漏洩し、侵食する、生物は実在ではないが現実ではあるようなナノレベルの軍隊なのだ、生命は仮想性でできている、と語る その間宇宙に浮かぶ石みたいなのがどんどん集まっていって球体になる
そしてそれがぐにゃぐにゃと形を変えていく
アモルファスだ、と思う
「インフォメーション」も様々な声で語りかけることしかできませんと言っているので、主体をそういうものだと捉えているんだなあというのがわかる
彼女?は、名前を伝えることはできるがあえてそれはしない、例えばこれは蝶である、とピン留めすれば、詳しく観察することは叶っても、蝶の生命は失われてしまうと説明する
そしてそのあと、「パラダイムシフト」に至るための障害を捨て去りましょうと言い、「現実が測定可能なものであるという神話を捨て去ってください」と言う
おおお近代批判だ!ハイデガーだ!となって嬉しくなる
そして生命の源にたどり着くために現実の捉え方を変えましょうという
ここで「二つの世界を歩く」というチャプターに変わり、キャサリン・シェインバーグという人の話が出てくる
彼女は私達の3分の2を占める無意識の海に目を向けろと主張しているらしい
ここらへんから映像に女性のマネキンが出てくる
次に精神と体のつながりを探求した先駆者のジーン・アクターバーグの話になる
瞑想を取り入れると病気の治りが早くなるという
そのあと「インフォメーション」が、夢と現実の区別は真実ではなく、夢という「言語」を理性的な思考によって忘れていくのだと語る
強いイメージの力を持った人々は、思考で移動することができると言い始める
ここでシャーマンの話が出てくる、まさに「動かない旅」だ、となる
二つの世界が一つになることが、「ドリーム・インキュベーション」、「夢見の実践」の持つ意味らしい
ここらへんから、結局「何かが可能になる」とか「動くことができる」「一つになれる」という理想が西洋っぽいなあと思い始める
チャプターが「動かない旅」に変わり、突然シマリーシェイと名乗る女の子の自撮り映像に切り替わる
13-18歳の女の子で構成されるリアリティシフトコミュニティというグループに入っているらしい
このグループの動画がtiktokでバズっているらしく、その説明がシマリーからされていく
DR(Desired Reality)を達成するために、CR(Current Reality)から抜け出す必要があり、それに瞑想とかを使ってるらしい
今まで「インフォメーション」がやってたことと同じこと言い始めてる!伏線回収やんけ!と興奮すると同時に、なんかずっと陰謀論っぽい匂いがしてるなあと思い始める
そしたら案の定CIAの文書とか言い始めてマジかだいぶスピってるなあとなる
そのあと天照大神の話が出てきて、平塚らいてうの「元始、女性は〜」の有名なやつが出てくる
その界隈の人々に日本書紀が使われてるのか……と思い複雑な気持ちになる
あとなぜか映像が天照大神を二次元化したイラストとか中華ゲームの天照大神ばっかりになってて笑った
それから、ぶち上がっていくよー!という言葉と同時に「左脳の抵抗」っていうチャプターに切り替わったから、すごい皮肉だなあと思ってだいぶ笑ったけど勘違いだった
その後は水槽の脳の話とかを出しながら、仮想現実が「現実」ではないという保証はない、メタバースを歩き回るのは一つの生き方だ、という話になっていき、
最終的には「内的世界と外的世界の橋渡しをするのは身体」という結論で終わる


体験し終わったときに思ったのは、「でもそれって結局西洋思想じゃね?」だった
なんというか、夢の世界に降りていって新たな自己や世界観、現実を獲得するというナラティブ自体が良くも悪くもとても現代的なんだよな
別にそれが悪いとかではないしむしろ妥当だと思うけど、もしやりたいことが新たな現実の獲得なんであればその地盤から変えるべきなんじゃないかなとは思った
知識人に対して説明する際にはまあ納得してもらえるだろうけど、やっぱ芸術ってこういうのじゃない気がするんだよなあ


キュンチョメ「女たちの黙示録」




この作品は今回のリモート作品の中で一番好きだった
まず真っ黒のダンボールが届く
開けると紫?紺?の袋が入っていて、袋の中にはクッキーが8つ入っている
?と思って食べると中から紙が出てくる、見ると電話番号が書いてある
まずこの演出にドキドキした、掛けたらどうなるんだろう?という期待
緊張しながら掛けると、間延びした自動音声が流れ始める
「女たちの黙示録、その8、植物の自殺」
スピーカーにしたスマホから聞こえる不思議な抑揚の声が、静かな部屋に反響する
「気持ちが悪い、気持ちが悪い、この世界は、気持ちが悪い」
五分弱の物語が終わったことを告げるビジートーンがやけに心を揺さぶった
なんだろうこの気持ちは
一ヶ月くらいしてから、他の7つを一気に聞いた
どれも050ナンバーで、同じくらいの長さの物語で、女たちに関係した世界の終わりについての話だった
言いたいことを我慢すると胃に小さな石が溜まっていく話、宇宙介護センターに後進国の女性が送られる話、世界中の裸婦像たちが、見られることに飽き飽きして人々の目を潰す話
物語としても上質だけど、なによりも「上演」の仕方が素晴らしかったと思う
まずフォーチュンクッキーを食べて物語と一緒に体内に取り込むことで、その物語を胚胎しているような感覚になる
彼女たちの苦しみ、怒り、悲しみを身ごもり、抱えるような気持ちになる
また私達は物語と11桁の数字を送ることで繋がることができる
繋がると、響く音が空間に浸透し、一気に世界がその物語とのプライベートな空間に変わる
そして勝手に電話は切れ、なんとも言えない喪失感のようなものが残る
4月になればその番号は何とも繋がらなくなる
その物語と私をつなぐ回路は消える
でも絶対にそれらはどこかに残っているはずだと感じながら、これからの日々を過ごすことになる

ほんと完璧だ
プロットそのものだけでなく、体験させる方法も込みで意味の詰まった作品だった
女たちは今日もどこかで、もっといえばすぐそばで苦しんでいて、それは女だけの問題ではないということを体感できる作品だった






そのほかのシュウ・ツェユー「彼・此―かれ/これのこと」も、佐藤朋子「オバケ東京のためのインデックス 第一章」も面白かったけど、
やっぱりアートと言うよりナラティブの面白い伝え方の一種、作品の意味を解説しようとすれば容易にできてしまうものとしか思えなかった
今自分が求めているのは、どう説明していいかわからない感情を残していく作品なんだなと思った
いやあ、キュンチョメ気になってきた


芸術鑑賞記録

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