0802


仕事を終え、バスで帰り、その流れで家の車に乗り込んでソレイユに向かう
あまりにも慣れ親しんだ道を進み、広い道を数回曲がり、平面駐車場に滑り込む
この車を、父親でも母親でもなく、自分自身で動かしているということに、あまり慣れない
車酔いしながら、父の帰省のため鳥取に向かう後部座席の匂いを今でも思い出す
運ばれるのではなく、運ぶものとして、この大きすぎる黒い車が動いている、動かしている


ソレイユがダイヤモンドシティだったころ、学区外のここは、それこそ自分が自分自身で動いているという実感を得られる場所だった
下水の匂いが漂う地下道を自転車で駆け抜け、上がった先は見慣れない、広大な線路が右手に広がる新世界だった
ゲームセンターでコインを拾い、それをアーケードゲームで10枚にする友達に助けられ、限りなく少ない出費で走り回る
やろうと思えば俺たちはどこにだっていけると、本気で思わせてくれた場所
学区外の子どもたちは、まだここに来ているのだろうか


どこにでも行けると思うことが、可能であると、すんなり理解できるほど、この社会というものは良心的にはできていない
ただそれはいつでも、蓋然性ではなくとも、可能性として、誰にだってあると、信じることはできる
どこにだって行ける、なんだってできる
それは、わたしたちより前に、わたしたちを規定している


誰かの生をひきうけるとは、わたしの生をあずけるということなのだと、少しずつ理解してきている
それを、苦しくても、一緒に進めてくれる人と居る生活が、自分の体を、自分のものにしてくれている
ここではない理想的などこかに、既に錨は降ろされていて、あとはそこに向かって、この大きな船がゆっくりと引かれていくのを、待つだけなのだと、信じることができる
具象を超えたその先に、硬い鎖は真っすぐ伸びている
どこにだっていけるから、そこに行きたい、それが、どこかの海底に錨を下ろす
きっとうまくいく、大丈夫


2025



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