俺は全て言葉にして、音楽にして、全部わかって欲しくて、それで18まで生きてきたのに、その火が急にふっと消えてしまって6年が経つ
俺はずっと孤独を勝手に感じていて、自分から誰かに、本当の意味で歩み寄ることをせずに、ずっと生きてきた
大学に入って、その孤独は即席に解消できるのだと体が覚えて、それをしながらだらだらと生き始めた
そうすると、孤独それ自体が、インスタント・孤独になってきて、自分の根っこにある孤独からそれが遊離していった
インスタント・孤独はやがて、自らを中心にいろんな欲望を数珠繋ぎに構成していくようになった
インスタント・孤独が作ったインスタント・欲望は、インスタントに、すこんと俺を宙ぶらりんにさせてくれた
もやのかかった灰色の湿地で、靴を汚しながら黙々と歩き続けていた自分は、急に何の重力もない開けた世界に投げ入れられた
この世界こそが本当なのではないかと、そう思わせようと世界は、次から次に餌を目の前に出し始めた
その餌は、インスタント・欲望を満たすためだけに作られた効率の良い完全食で、俺はそれを食べていれば何とでもなるように調教されていった
この餌で満たされるものそれ自体が、この世界によって生み出されたものであるということは、巧妙に隠され続けた
インスタント・世界は、今まで自分が憧れ続けた、素直な言葉が素直な言葉として受け取られる人間に、俺はなれたのだと思わせてくれた
なぜ火が消えたのか、それは全く単純で、俺がインスタント・人間として、仮想の欲望世界に溺れていたからに他ならない
院試に受かり、研究を始め、能力のなさに絶望し、躁鬱になり、親や恋人に助けられ、なんとか修論を提出した自分は、誰だったのだろうとふと思う
退化して痩せ細った足は、湿地の上では、ただ体を支えることすらままならない
かといって、切り株に腰を下ろして、ゴドーを待つわけにもいかない
だからこそ俺はまた、湿地を歩き始めなければいけない
あのころのように、本当の孤独と真正面から向き合わなければいけない
そこにしか、言葉は眠っていないから
でもそこはもう、歩み寄ることを放棄した結果たどり着く場所では、きっとない
汚れて湿った自分が、暖かい光を放つ家に向かい、ばつの悪い笑みで扉を開けた先に、待っている人がいる
きっとその人も、自分とは違うどこかで汚れをつけて、同じ顔をしているだろう
その家を出て、また汚れを互いにつけて、やがてその家に戻ってくる
それは、いわゆる「幸せ」ではないと思う
でも、そうすることでしか、この湿地の先になにかがあるかもしれないと信じ続けながらここを歩くことでしか、
それを経ることでしか、嘘をつかずに生きていくことはできないんだと思う
知らない自分が知らない欲望に踊らされ、知らない方法で誰かを傷つけることほど、心が死ぬことはない
家族友達恋人と、本当の自分として、悔いのないように向き合うためには、インスタント・人間では駄目だ